クロワデュノール。
初めて買う馬。
キタサンブラック産駒の、牡馬。
良駒だと思う。
ホープフルSに出てくればと思い、待っていた。デビューからの2連勝に大物の相が出ている。2戦目、東京スポーツ杯では体重を大きく増やして(+24キロ)の勝利。成長させながらステップアップできているのがいい。
問題点は、キタサンブラック産駒ということ。気性に問題がある産駒がたくさんいる。気性というものは「普段の気性」と「レースに行っての気性」があり、ここでは「レースに行っての気性」の方を指している。大物排出という点では、これからキタサンブラック産駒の時代に入る一方で、実際に「飛び抜けた大砲クラス」はイクイノックスとソールオリエンスしか出していない。突き抜ける産駒はトコトン突き抜けて強くなり、そうではない産駒は気性面が壁になるタイプもいる。イメージより、各産駒の能力の見極めが難しい種牡馬だ。
キタサンブラック産駒の場合、母系はあまり見ない。母系の良さを生かすというより「キタサンブラック自身らしい強さ」あるかどうかを見る。自身の父系の濃さで勝負してくる種牡馬だ。
この馬は、どうか。スローペースの中を完璧に折り合う姿もいいが、何より、追ってゴールラインを越えてフィニッシュの後もまだ伸び続けているような姿は、キタサンブラック産駒から「3頭目の大物」が出るのかなという雰囲気はある。世の中の評価も高いが、ここでそれに応える可能性は十分ありそう。
エビデンス・過去の似ている事例としては、2戦2勝で「大物ではなかった」コマンドラインが思い出される。ただ、コマンドラインは、あの時に書いた通りで「サウジアラビアロイヤルCはトリッキーな騎乗で勝たせてもらっていた」。あの時とは少し違うと思う。
どちらかというと、ダノンザキッド。この馬が東京スポーツ杯からこのレースをデビュー3連勝で勝った時に似ているだろうか。
別な視点で「右回り初」を不安視する声も多い。ホープフルSではないが、この時期の同じ2歳G1を例に、朝日杯FSでサリオスが東京で2戦2勝から圧勝した事例がある。今回は、むしろこれに似ているのかもしれない。
鞍上は、北村友騎手。
怪我で休養した後は大きな舞台で活躍がなく、存在感は薄い。超一流の外国人ジョッキーが日本に集うこの秋競馬も、それは変わらなかった。ただ、『クロノジェネシスの時代』。初期のクロノジェネシスでは首をかしげたくなるような騎乗もあったが、中期、後期と、騎乗に安定感が出ていた。4歳秋に有馬記念を制した時の騎乗は、単複を買いながら見ていたが、鮮明に覚えている。関西の騎手が「関東の騎手の庭・中山」でここまで綺麗な先行競馬を決められるのかと絶賛した騎乗だった。
もともと、ミヤビランベリ(七夕賞)に乗っていた頃から、先行馬は上手だったと、目の前にある”本島ノート”に記してある。それがクロノジェネシスと出会い、バージョンアップしたのが2020年あたりの出来事だった。
今年、怪我から復帰した北村友の単複を、ひとつ買っている。ダノンマッキンリーのUHB杯(着外)だ。前に行ってほしい札幌の芝の中、負けはしたが、いつも追い込みのこの馬を、馬場に合わせて前で流れに乗せて、騎乗に錆びつきは見られなかった。勝ったファルコンSよりもよかった。
”この『着順は完敗、しかし騎乗は完璧』というのを見逃さない。”
秋。クロワデュノールと出会った北村友の騎乗は2戦とも、クロノジェネシスで学んだであろうグッドポジションで流れに乗る競馬が、関東圏でも完璧にできていた。今回も、前走の形を想定して3番手くらいのつもりで出していけば、G1で流れが速くなる分、3〜5番手あたりに収まると思う。そこでマイペースを守りながら、しっかり流れに乗せたい。北村友、久しぶりのG1制覇へ。腕は錆びいついていない。あとは、G1に行っても馬の気性面が耐えられることを祈る。
”近年、ホープフルSは、昨年の優勝馬レガレイラを除けば、中山コースで、前にいく機動力のある素質馬たちがワンツーを決めてきた。”
クロワデュノールはそれが可能な走りをしている。中山コースは舞台が大きくなればなるほど「前でタイトに回る」こと。そのことを、北村友一はクロノジェネシスから学んだ。
G1だ。
有力各馬に、ひと言ずつ、見解を付けていこう。
アスクシュタイン。
札幌2歳Sを見る限り、「行ききってしまった2戦目」がこの馬を成長を止めてしまったように感じる。
アマキヒ。
良血の「金子氏・ブランド」の馬。それだけで恐い。1戦1勝馬だし、この種牡馬の子で気性面のことは未知、しかし侮れない存在感がる。僕は普段印を打たないが、印で表現するとしたら、△。
クラウディアイ。
レースセンスがある。ただ、ちょっとG1では走りが素軽すぎるように思う。
ジュタ。
1戦1勝だが、この種牡馬の子らしくなかなか豪快な勝ち方。昨年のミスタージーティーっぽい存在感。どこまでやれるか。
ショウナンマクベス。
左回りで好成績だが、札幌2歳Sは右回りというより馬場が敗因。リオンディーズ産駒は再評価している。鞍上池添が恐い。マークしておく。△
ジョバンニ。
好調のエピファネイア産駒。騎手次第で自在性もありそう。レースのやり方次第で、上位進出も見込める。△
マジックサンズ。
問題は佐々木大輔。ここ2週の騎乗が、少しイマイチ。若手の中では、坂井、西村に次ぐ、数少ないJRAの実力派だと思っている。ただし。サウジアラビアロイヤルCのアルテヴェローチェ、そして、先週のガイアメンテなどを見ても「かなり大味に4コーナー回る」のは、たまにではなく、もはやこの騎手の癖のようにすら感じる。
そして、この騎手自身の休養前は「それを意図的にやっていた」ように見ていたが、復帰後は「そうなってしまっている」ように見える。全体的にヨーロピアンなフォームで、ムーア風。ムーアもあぁいうレースをする時があるが、少なくとも中山では、あれはマイナスにしかならない。簡単に言うと「普通にブン回し」。
しかし、それ以外、特に道中、差し馬で流れ祈って進出のタイミングも逃さず乗れるJRAの若手は少ない。その点では一番上手いかもしれない。この夏、札幌でショウナンバシットの単複を買ったが感動するほど完璧だった。
馬はキズナ産駒の、牡馬。良駒だと思う。札幌2歳Sも大味な競馬になっていたが、それでもアルマヴェローチェを差し切る競馬。実力を感じた。注目の一戦。〇
マスカーレードボール。
ドゥラメンテ産駒で、SSの3×3という、濃い配合。強烈な爆発力はそこから生み出されているような走り方。注目できる。▲
ヤマニンブークリエ。
逃げ・差し自在の1頭。右回りでいろいろな競馬をしてきた。2戦の競馬の中身は濃い。スムーズに運べれば。パワーがあり、中山コースも合いそうなタイプ。△
<本島修司の競馬分析ワード>
【馬単位】:2008年に本島が発案した概念。一般的な「このレース、どの馬が来るか」ではなく「この馬、どのレースなら来るか」という見方に切り替えること。馬1頭と真摯に向き合うための概念。
【良駒】:その種牡馬の「産駒らしさ」が濃く出ている馬。『信頼性』が見込め、『ポテンシャルの高さ』を測る目安のひとつにもなる。
【エビデンス】:本来は「根拠」という意味の言葉だが、似ているパターンや、似ている状況で「必然の好走が出来た過去の事例がある」という意味で使用している。