マイルCSは実力どおりに決まることが多いレース。1984年のレース創設から11年連続で1番人気が連対し、そのうち10回が枠連、馬連で10倍以下の低配当。さらに9回が5倍を切る超低配当だったことから、「日本一堅いG1」と言われていた時期がありました。その頃は、ニホンピロウイナーやニッポーテイオーなど、絶対王者が存在していたことも低配当に拍車を掛けた理由ですが、コース形態も大いに関係しています。
マイルCSが行われる京都芝外回り1600mの舞台は、2コーナー奥のポケット地点がスタート。最初の3コーナーまで約712mも距離があります。逃げ、先行タイプは、隊列形成のため、最初のコーナーまで息が入れられないことが多いので、本来は最初のコーナーまでの距離が長いほど、ペースが上がりやすくなります。東京芝1600mで行われる安田記念の前半ペースが速いことが多いのは、最初のコーナーまで距離が通常よりも長い上に、前半で坂を下るコースだからです。
しかし、京都芝外回り1600mは、前半2F目を過ぎてから徐々に坂を上って行くため、逃げ、先行馬が序盤で行き切っても坂で減速する形。坂の影響によって、前半のペースが速くも遅くもないところで収まることが多いために、後半ペースも速くも遅くもないところで収まるのです。実際に過去10年のマイルCSのペースを平均してみたところ、前半4F46秒5、後半4F46秒4とほとんど前半、後半のペース差がありませんでした。
マイルCSは理想的なほど平均ペースで流れることで、どのポジションからでも能力を出し切ることが可能となっています。3年前のミッキーアイルのような逃げ馬が勝つこともあれば、一昨年のペルシアンナイトのように、追い込み馬が勝つこともあるのは、そのせいでしょう。
今年は逃げ候補がグランチャーレ、マイスタイルで何が何でも逃げたい馬が不在。場合によってはダノンプレミアムが逃げる可能性もあり、スローペースが濃厚ですが、それでも良馬場で前半4F47秒台後半以上というほどのスローペースにもならないでしょう。つまり、展開から穴馬を探すのは難しいということ。
しかし、今年は実力馬が休養明け及び前哨戦で走っている馬が多く、当初からここを目標にしている馬が少ないということ。その中で実力もあってここが目標という馬が1頭だけいます。それは今年の安田記念の覇者(4)インティチャンプです。安田記念は外枠のアーモンドアイが差し損ねたことが印象深いように、超々高速馬場で外々を回るとアウトという状況化。アエロリットとグランチャーレに行かせて、3列目のインを上手く立ち回ったことが好走要因ですが、決してフロックというわけでもありません。
実際に昨夏から休養を挟んで目下3連勝目で東京新聞杯を勝利しており、その次走のマイラーズCでも今回1番人気のダノンプレミアムに0.2秒差(4着)まで迫っています。休養明けの前走・毎日王冠でも超スローペースで引っ掛かりながらレースを進めて、ラスト2F目で先頭に立っての3着。叩き台に徹するようなレースぶりでした。能力上位馬の中ではもっとも今回における上昇度があるでしょう。また、今回も内枠の逃げ馬を見ながら、いい位置が取れる安田記念と同様の5番枠。よって、今回の本命◎。
○は、例年のマイルCSよりも低レベルではありましたが、一昨年のこのレースの覇者で、昨年は大阪杯とこのレースで2着の実績がある(7)ペルシアンナイト。この馬は今年に入ってから不振でしたが、前々走の札幌記念で勝ち馬と0.3秒差(5着)と復調の兆し。前走の毎日王冠では、本来、差し馬のこの馬にとって、早仕掛けが応える形で4着に敗れているので、今回での上積みがあるでしょう。
▲は、3走前のマイラーズCで2着、安田記念でも4着と好走した(2)グランチャーレ。マイラーズCは強豪ダノンプレミアムが2番手につけたことで、他馬が控えて前半4F48秒5のかなり楽なペースで逃げられたもの。安田記念はインを立ち回れたことが好走要因ではありますが、今回も例年のマイルCSと比べると、前に行く馬が楽になる可能性が高いので3番手評価としました。休養明けの前走・スワンSは距離が短く、直線では詰まる不利もあって5着に敗れていますが、今回は実績のあるマイル戦。逃げ、もしくは番手からの競馬なら上位争いが狙えるでしょう。
あとは△に一昨年の五稜郭Sでは、逃げてスティッフェリオに3馬身差をつけて勝利した実績がある(3)マイスタイル。この馬は前々走の函館記念も緩みないペースで逃げて勝利しているように、逃げるとしぶとい馬。休養明けで一気の距離短縮となった前走・スワンSでもハナ差、クビ差の3着と案外と走れましたが、これはブリンカーの効果なのかもしれません。前走で通用したことで、よくわからなくなってはいますが、個人的にもっと距離があったほうがいいし、逃げたほうがより好ましいと見ているので警戒しました。
他では安田記念の覇者(12)モズアスコット。オープン凡走から意欲の連闘策で挑んだ安田記念は、勝って当然のところがありました。しかし、2番手から早め先頭に立ってレコード決着の2着に好走した昨年のマイラーズCがとても強い内容。その頃の先行力を考えると、まだ、完勝していない感はあります。しかし、今年の安田記念ではインティチャンプと0.3秒差(6着)、前走のスワンSでもハナ差2着と復調気配は見せられました。前記したように、今回は休養明け及び前哨戦で走ってしまっている馬が多いメンバー構成だけに、人気がないここは警戒したほうがいいでしょう。
さらに長期休養明けの4走前・金鯱賞では、先行して後の宝塚記念の覇者リスグラシューに全く差を詰めさせなかった(14)ダノンプレミアム。この馬は最内枠を先行した日本ダービーで、最後伸びあぐねたあたりから、芝2000mがベスト。実際に休養明けの前走・天皇賞(秋)でもアーモンドアイには離されたとはいえ、2着に善戦し、現役トップクラスの実力を見せました。今回は休養明け好走後になるので過大評価は禁物ですが、3走前のマイラーズCのように楽に先行できれば、ここも連対確保しても不思議ありません。
最後に3走前のスプリングCでは、後の日本ダービー馬ロジャーバローズなどの強豪を下して勝利した(16)エメラルファイト。この馬は一気の距離短縮となった前走の富士Sでも積極的な競馬で勝ち馬と0.8秒差(7着)。前走の着差、着順はけっして褒められたものではありませんが、富士S当日は雨の影響を受けて力の要る馬場。差し、追い込み馬が掲示板を独占したように、実走ペースは各馬の仕掛けが速く、前が厳しい流れでした。騎手の意識ほど、馬場が回復していなかったのです。それでけに今回で走れも…という気がしています。